今回のエントリは、今までと同じことを別の視点から書くことになってるだけかもしれないけど、今まで良く理解できなかった人にも分かりやすくなっていると幸いです。
社内社外問わず、どうも問題意識がサービスの提供側ほど漠然として希薄な印象なので、確認の為にメモを残しておきます。
※以下はあくまで私見であり、所属組織や他のメンバーとは関係ありませんが、一般論として十分な説明となっているかとは思います。
AI系技術は、ちゃんと適用分野の深い理解がないと最適に利用することは難しそうな例でもあります。
<Webサイトの導線基本構造>
現在の一般的なWeb上のコンテンツ閲覧と、実世界、例えば実店舗で商品を見て回ることで、Web側がが劣ることは結構ある。現物が見られないことは永遠に超えられなさそうな壁ではあるけども、
これが、Webサイト全般に欠けているものかと思う。訪問者は正に「木を見て森を見ず」の状態を常に強いられるわけです。(私はこれが嫌で、あてのないWebブラウジングはしないのです。)
新着順、人気順など、決まった順番を決めつつ、カテゴリ、価格帯など、検索条件で絞って出力を見る。(まぁ、SQLのSELECT文でORDER BYとWHEREの調整をすることと一緒だが。)
※キーワード検索なども多少自由になった検索条件程度。文字情報が少ないコンテンツの検索の助けにはあまりならない。
さらに個々のコンテンツ同士は、各種「売り上げランキング」「個人クリック履歴」「この商品を買った人はこんな商品も買っています」等のレコメンド等の複数のリストで参照し合う。(私は他人の買っていないものを欲しがるので、どれもクリックした記憶は殆ど無い…)
加えて、各種サーチエンジンから直接個々のコンテンツにショートカットしたりもする。
これが、一般的なWebサイトの導線基本構造かと思います。
<Webサイトの収納力が産む弊害>
さて、ここで問題になるのは、物理空間配置に縛られないWebサイト特有の膨大な収容能力が産む弊害です。
コンテンツが数万件程度なら、ソートとカテゴリ等既存の検索条件(よくある左ペイン)だけで、例えば全検索結果の先頭の数100件で殆どのコンテンツへの導線を網羅できているかも知れませんが、コンテンツ数が、その10倍、100倍、それ以上となったらどうでしょう?
極端な話、コンテンツが数千万件ある場合には、「よくある左ペイン」だけでは殆どのコンテンツが誰も辿りつけない「死にコンテンツ」となってしまいます。
というわけで、コンテンツが多ければ多いほど、個々のコンテンツページにある、ランキングやレコメンド等のリスト表示に期待される導線拡張の役割が大きくなるわけですが…
単純に考えればお分かりの通り、まず、
明らかにランキングは「導線拡張」には寄与しません。余程の外的要因が無い限り、左ペインから辿り着ける(ことのあった)コンテンツのみが残っています。このランキング表示に残っていることが原因でクリックされたりしてランキングが維持されたりもします。過去の人気コンテンツへの導線維持の機能しか果たしません。
では、
通常のレコメンドリストがその役割を果たせるかというと…
難しいと言わざるを得ません。
レコメンドリスト生成には様々な手法があり、個人のクリック履歴からランダムに出力するだけの単純なものから、各コンテンツや各閲覧端末の関係を有向グラフ状に集計してそれを元に表示するような難しい物までコンテキストの深さは様々です。
しかし、誰かが訪問していないものは表示できない(※)ことに変わりはなく、導線視点で言うと、
ある時期に存在して利用された導線の維持の機能がやはり基本になります。
(※「表示できない」というよりは、当てずっぽうになってしまうのでレコメンドとしての「精度が他の表示より)格段に落ちる」という方が正確かも。)
ここまで説明した導線だけでは、
「登録時に新着リストに載った時期にあまりクリックされないと死にコンテンツ確定」
を避けることができません。
※なので、サイトによっては幾つも同じコンテンツを定期的に新規登録したりとか、意味不明なことが行われたり。。。
導線拡張だけに特化して考えると、単純にランダム表示したり、履歴の無いコンテンツまで雑な類推で出力しても、
「なぜ今見てるコンテンツに対してこれらのコンテンツリストが出力されているのか?」
という繋がりが論理的にも直感的にも希薄であれば、訪問者が中身を見る確率・クリックする確率はそれだけ低くなってしまうと考えられます。(例:「おすすめ」というタイトルでランダム表示)
<AI系技術による導線拡張>
ここで逆に考えます。
「なぜ今見てるコンテンツに対してこれらのコンテンツリストが出力されているのか?」
がある程度、
訪問者とコンセンサスが取れれば、ランダムより相当見てもらえるのではないでしょうか。
例えば、
等は、その並び方自体に情報があり、あまり興味がなくてもそのタイトルの下のリストの先頭が見える頃には、
頭の中はその情報を受け取る準備ができていて、先頭の何個かを見て「ふ〜ん」という程度には脳まで届くと思います。興味があればスクロールしても貰えるでしょう。
しかし「おすすめ」というランダムの場合には、「おすすめ」というタイトルで、(どういう観点だろう?)
と最初は待ち構えますが、ランダムだ(もしくは、意味がわからない並び)と判ったら、基本スキップされるのではないかと予想されます。ニーズに偶然フィットしてクリックされることはあるかも知れませんが、導線の利用率は低いと思います。
つまり、超多数のコンテンツ間の十分な導線確保のためには、
- 互いに並びが似ていないリストで
- 見ただけで並び方がタイトルに合っているか確認可能なものを
- できるだけ多種類
表示することが有効と考えられます。
「見ただけで並び方がタイトルに合っているか確認可能」 としたのは、複雑すぎるのもランダム(無意味)と取られるからです。
各リストのタイトルも重要と思われます。
という文脈でいうと、
レコメンドと称して履歴から何らかの範囲のランキングを表示するいう枠組みだけでは、複雑な方法でも異なるリストをそう何個も生成できない(&タイトルを決められない)ので、別の観点のリスト生成法があると(全コンテンツに行き渡るような)導線の拡張にとても有効です。
そこで、
AI系技術による何らかの特徴量抽出&類似性ランキングで整理することにより、
お手軽に導線拡張ができます。例えば、画像を何らかのベクトルに変換するものを使ってトップ画像の類似性ランキングを各コンテンツ基準で生成して「似た画像の商品」みたいなタイトルを付けて表示するだけで、並びにある程度の納得性があれば、意外と見てもらえると思います。
違う学習済みモデルでも同じようにやってみて、その数種の画像類似リストの観点にそれぞれふさわしいタイトルをつけて差別化することができれば、それだけで導線がかなり増やせるわけです。
画像に内容の特徴がそれほど現れないテキストメインのコンテンツでも、リストに並べたタイトル等に納得性があれば、「似た内容の記事」みたいなタイトルでリスト表示しても良いと思いますが、画像ほどの直感的説得力は無いかも知れません。
下手に混合するよりも、単純化して納得できるタイトルのリストに分離したほうが訪問者に伝わりやすいでしょう。
※余談
と言う状況ですので、コンテンツが非常に多いサイトの場合には、導線拡張の効果(コスパ?)は「似た画像」リストのほうが「レコメンド」リストよりも高くなると考えられ、導入の優先順位はその特徴量類似ランキングの方が高くなるでしょう。このように導線拡張を既に他手法で行った状態をベースに追加でレコメンドの効果・導入コストが語られるようになると、現状のレコメンド手法選びは大きく変わる可能性があるので注意が必要です。(別路線の導線拡張にそれでも特化するか、追加導線拡張を諦めて純粋なレコメンドに特化するか。。。いずれにせよ、似た画像軸という落とし所を奪われた状態でのレコメンドリスト生成のハードルはかなり上がるのではないかと。)
そして、私がこの記事を書いている現在在席しているサイジニアでは、上記のレコメンドリストの提供サービスを事業の一つとしています。加えて、画像の特徴量ベースにしたリスト毎日生成もサービスラインナップに加えているので、自分では特徴量類似性ベースのリストをですぐには試せないサイトさんは試験導入してみても良いかも知れません。
<その先のコンテンツブラウズ導線の模索>
前述の余談にあるような、
直感的納得度の高い特徴量空間を持つAI系の学習済みモデルが一般的に利用されることによる、Webサイト周りの関連事業の技術再編可能性
については私は専門じゃないので語れませんが、コンテンツブラウズへのAI系技術利用を既存の「タイトル付きリスト羅列」からもう少し深めるトライアルは行っています。
つまり、冒頭で述べた、
「広範囲の俯瞰を伴う自由な導線」
の一部的でも、この特徴量空間を利用して上手く提供できないかというものです。
画像で旅する https://trip.deqwas.net
というサイトを立ち上げています。
とりあえずは、リストの後半ほど意図的により遠くの特徴的なコンテンツをピックアップすることで、少しでも俯瞰範囲を広めようとしています。
この興味深い使い心地を言語化するのが今度は難しくなってしまうのですが、真似してやってみるでもいいので、新しいインターフェースの可能性を拡散して皆で議論していきたいです。
Webサイトに限らず、個人の画像ライブラリをデータベース化して閲覧するツールなんか作ってみて公開するほうが分かりやすいでしょうか?
いつか時間ができたら…
DBの一般機能として超多次元ベクトルが扱えるようになったら、サンプルとして作ってみるとか?
ではまた。